中国知財事情 第7回
中国特許法 秘密保持審査制度
中国特許法第3次改正(2009年10月1日施行)によって導入された秘密保持審査制度をご紹介します。
1.秘密保持審査制度
中国特許法は、中国国内で完成した発明又は実用新案について、中国以外の国で出願する場合に、秘密保持審査を受けなければならないと規定しています(第20条第1項)。
そして、この規定に違反して、中国国内で完成した発明又は実用新案について、秘密保持審査を受けずに中国以外の国に出願した場合、その発明又は実用新案について中国に特許出願しても特許権は付与されません(同4項)。
秘密保持審査の請求方法は、出願ルートによって以下の3つに分けられます
(特許法実施細則第8条)。
(1)中国が最初の出願国となる場合
外国に特許出願する前に国務院特許行政部門に秘密保持審査の請求をする。
(2)国務院特許行政部門にPCT出願する場合
出願と同時に秘密保持審査を請求したものとみなされる。
(3)外国が最初の出願国となる場合
外国に特許出願する前に国務院特許行政部門に秘密保持審査の請求をし、かつ、その技術方案について、詳しく説明する。
秘密保持審査制度は、アメリカやシンガポールにおける外国出願許可制度に類似しています。
もっとも、アメリカやシンガポールにおける外国出願許可制度においては、最初の出願をアメリカやシンガポールにした場合には、一定期間経過後、外国出願についての別途の許可を得ることなく外国に出願することが認められます。一方、中国の秘密保持審査制度は、最初の出願を中国にした場合でも秘密保持審査を請求しなければなりません。この点で中国の秘密保持審査制度とアメリカやシンガポールにおける外国出願許可制度とは相違しています。
なお、日本においては、中国の秘密保持審査制度に類似する制度はなく、日本国内で完成した発明を外国に出願することに対して制限はありません。
2. 秘密保持審査制度の運用状況
中国知識産権局によると、秘密保持審査の請求から約2週間で審査意見通知書が発行されており、効率よく審査手続が進められているとのことです。
申請件数 | 審査件数 | 許可決定件数 | 許可率 |
29,934 | 29,709 | 29,658 | 99.83% |

3. 日本企業にとっての秘密保持審査の必要性
日本企業で、中国に製造・開発を担う現地法人を持つ企業では、中国国内で完成した発明であっても、本社のある日本を最初の出願国とする実務が多く行われています。
一方、中国市場は、日本企業にとって、重要な市場として位置付けられております。しかしながら、模倣品問題も多く存在しており、中国市場で成功する一つの要素として、模倣品に対抗する権利の確保が重要課題となっています。
このような状況において、日本企業の中国現地法人で完成した発明を、秘密保持審査を受けずに日本や他の外国に出願してしまうと、中国で特許権の取得ができなくなり、模倣品に対抗する権利の確保が必要な中国市場でのリスクとなります。
中国現地法人で完成した発明について、中国を含めた外国への特許出願を進める場合には、秘密保持審査の請求の方法や審査に要する時間を考慮に入れた出願戦略を事前に検討することが重要です。