Ⅰ.「補正の新規事項」審査基準の改訂事項
改訂ポイントは以下の4点になります。
1.「明細書又は図面に記載した事項」の定義の新設
(1)改訂の趣旨
ソルダーレジスト大合議判決(知財高判20.5.30,平成18(行ケ)第10563号)で示された「明細書又は図面に記載した事項」の判断指針を、補正の新規事項の基本的な判断基準として示したもの。
(2)改訂内容
(改訂箇所: 審査基準P.1 3.基本的な考え方)
従来の定義…「当初明細書等に記載した事項」とは、「当初明細書等に明示的に記載された事項、及び「当初明細書等の記載から自明な事項」。
改定後の定義…「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項。
補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項」の範囲内においてするものということができる。
2.「新たな技術的事項を導入しないもの」の類型についての整理
(1)改訂の趣旨
請求項の発明特定事項の一部を削除,限定することによる上位概念化・下位概念化等に該当する補正について、補正事項が、当初明細書等に明示された事項、当初明細書等の記載から自明な事項のいずれにも該当しない場合であっても、この補正により技術上の意義が追加されないことが明らかな場合は、補正が許される類型を示したもの。
(2)改訂内容
(改訂箇所: 審査基準P.1 3.1 新規事項を含むか否かの具体的な判断手法 (1),(2))
補正事項が「明示的記載+自明」な事項である場合は、新たな技術的事項を導入するものではないから、許される。→原則
各論(上記・下位概念化、数値限定等)において、新たな技術的事項を導入するものではないので補正が許されるとされた類型も考慮して、新規事項を含む補正か否かを判断する。
3.「除くクレーム」とする補正についての整理
(1)改訂の趣旨
新たな技術的事項を導入するものではない「除くクレーム」とする補正の類型を整理したもの。
(2)改訂内容
(改定箇所: 審査基準P.5 (4)除くクレーム)
従来は「例外的に」とされていた「除くクレーム」とする補正について、「例外的に」の文言を削除。新たな技術的事項を導入するものではないので、補正は許されるとの基本的な原則に依るものであることを明記。
4.審査基準のいずれの類型にも該当しないものの取り扱い
(1)改訂の趣旨
審査基準に示されていない類型の補正について、上記1.の一般的定義に従って判断する際の審査基準の適用に関する方策を記載。
(2)改訂内容
(改訂箇所: 審査基準P.8 (3))
審査官は、
(a) 「当初明細書等に明示的に記載された事項」又は「当初明細書等の記載から自明な事項」であると補正が許される場合、及び、
(b) 各論に記載された補正が許される場合、のいずれにも該当しないときは、当該補正が当初明細書等に記載した事項の範囲を超えた内容を含むものとして、拒絶理由通知等をすることができる。
※実務的には、特許請求の範囲等の補正を行う際に、補正内容が上記4の(a),(b)のいずれかに該当し、「新たな技術的事項を導入しない」ものであることを基準として、当該補正が新規事項となるか否かを判断する必要があります。
Ⅱ.「進歩性のケーススタディ」の追加
進歩性の審査基準の関連資料として公表されたものです。以下の審査基準ハイパーテキスト版の進歩性の該当箇所から各ケーススタディにリンクされています。
以下の項目に関する裁判例が示されています。
1.進歩性判断の基本的な考え方
本件発明を知った上でその内容を刊行物の記載上にあえて求めようとする余り、認定の誤りをおかしたものとされた例(いわゆるあと知恵)等が示されています。
引用発明の認定 2件
2.論理づけの具体例
論理づけの観点について、具体例が示されています。
(1)設計変更 3件
(2)動機づけとなり得るもの
① 技術分野の関連性 2件
② 課題の共通性 4件
③ 作用、機能の共通性 2件
④ 引用発明の内容中の示唆 1件
3.拒絶査定での周知・慣用技術の扱い
審査基準の記載「通知した拒絶理由にとらわれて、新たな先行技術文献を追加的に引用するなど、無理な拒絶の査定をしてはならない。拒絶査定においては、周知技術又は慣用技術を除き、新たな先行技術文献を引用してはならない。」に対して、拒絶査定における周知技術・慣用技術の扱いについての裁判例が示されています。
周知技術又は慣用技術 2件
※実務的には、判例をベースにして進歩性の審査基準の具体的な適用態様を理解することが重要になると思われます。なお、審査基準においては、「ただし、各裁判例における判示内容・摘記内容は、そのまま一般化できるものではないことに留意が必要」との記載により、各裁判例があくまでも参考資料であることが示されています。