2005年10月1日

創成国際特許事務所主催
平成17年度 知的財産権セミナー

セミナー写真1
平成17年セミナー風景

平成17年度 創成知的財産権セミナーと題して、当所弁理士より特許調査の戦略的活用と商品形態と商品名の保護について2講演を行ないました。

セミナー資料

講演資料1 特許調査の戦略的活用 - 新製品開発のために - 弁理士 酒井 俊之

講演資料2 商品形態と商品名の保護 - 新商品販売に際して - 弁理士 大村 茂樹

商品形態と商品名の保護
講演風景
講演風景

コアデザインとシンボルマーク
 会内で新商品が開発され、知的財産権によって自社製品を保護したいと考えたとき、まず最初に新商品の技術について特許を取得することが考えられる。確かに、技術を高めることで新商品の競争力を高めることは重要なことと思われる。しかし、同種の商品が数多く競合している現在の市場では、独創的で消費者に違いがわかる商品が競争力を持つようになっており、商品の性能や品質だけで他社製品と差別化を図るだけでは不十分となる場合がある。
 一方、消費者の価値観も多様化して、性能・品質・価格もほとんど差がないのなら、誰もが持っているありきたりなものではなく個性的なものを持っていたいと欲求が出てくる。そこで、商品選択基準が、消費者に向けて直接視覚や聴覚に訴えるデザインやネーミングに向けられる。それだけに、新製品を開発するときは、性能や技術での差別化に加えて、消費者をひきつける特徴的なデザイン、印象的なネーミングで差別化をして消費者のこころを掴むことが重要になっている。
 今回は、商品の特徴的なデザインのことをコアデザイン、消費者に強くアピールする印象的なネーミングをシンボルマークと位置づけて、コアデザイン、シンボルマークをどのように保護していくかについて説明する。

商品差別化のポイント

コアデザインとは
 製品のデザイン創作においては、技術的・機能的な制約があったり、すでにデザインが成熟してしまって新たなデザインが創作されにくい場合がある。そのような場合には製品の一部のデザインに特徴を持たせることで、他社製品との差別化を図り、その特徴を有する自社製品のシリーズ化をするなどして、コアデザインをアピールし、自社製品の特徴を打ち出すことが行われる。
 すなわち、従来とは異なる特徴的なデザインがコアデザインといえる。そしてこのコアデザインを含む他のシリーズ商品が生み出されていくことにより、他社製品との差別化が確立され、このコアデザインを見ればあの会社の製品だと消費者がわかるようになる。

シンボルマークとは
 新製品を販売するにあたっては、その商品にネーミングをすることが行われる。
しかし、そのように最終製品にネーミングをするという通常の使われ方だけではなく、自社の独創的で特徴的な技術を表わすために、その商品が自社の独自の技術を採用した商品であることが判るようなネーミングの使い方もある。
 このようにネーミングを使うことによって、どのような技術を使った商品であることをいちいち説明することなく、短いネーミングで表わすことができ、自社の独自の技術をアピールできて技術の宣伝にもなるメリットがある。これも、商品の差別化を図るためのシンボルマークであると言える。
また、商品の差別化を図るために商品の特性を表わして他社製品と識別するためにシンボルマークを使用する仕方もある。こちらのほうが、むしろ一般的といえる。
 商品のネーミングは、自社商品を他社の商品と区別して、消費者が積極的に買おうという意欲を喚起するものである。また、ネーミングは、その商品のコンセプトを凝縮した表現であり、他社製品と差別化を図るコンセプトに従って開発されてこそ、商品と一体になってパワーを発揮するものである。

コアデザインを保護する法律

 新商品を販売するためにネーミングをし、それを商標登録することが重要であることは企業の知財戦略活動においては比較的よく認識されていると思われる。それに対して、コアデザインについてはその重要性の認識が不足しているようである。
 デザインを保護するための法律には、意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法がある。これらの法律を比較すると、まず、著作権法では、美術工芸品やテレビゲームなどの画像デザインが著作物として保護されるが、企業が製造する工業製品は保護対象外であるから、新商品のデザイン保護には利用できない。
 次に商標法では、商品及びサービスの出所表示のための標識である商標を保護するもので、直接的にはデザインを保護するものではない。しかし、立体形状が出所表示のための標識であるとして立体商標としてデザインが保護されることがある。立体商標として登録されれば権利は半永久的だが、商品の形態によって特定の出所が理解されなければ登録ができないので他の文字商標がない立体形状のみでは登録が困難となる。
不正競争防止法2条1項1号の混同惹起行為規制では、デザインが周知な商品等表示になっていて混同のおそれが生じれば、半永久的に保護される。しかし、不正競争防止法は権利を付与するものではないので独占権が与えられるものではなく、また訴訟になった場合にはデザインが周知な商品等表示であること、混同のおそれがあることの立証が困難であり、個々の事件ごとに主張・立証しなければならない煩わしさがある。また、他の商標が使用されていると混同のおそれなしと判断される場合もある。
2条1項3号の商品形態模倣規制では、意匠権がなくてもその商品の最初の販売日から3年間は、他人の模倣を排除できる点では非常にメリットがある。従って、意匠出願をして意匠権を獲得するまでの審査期間中の空白期間を埋めるために意匠を補完するために利用できまる。
この法律に基づいて攻撃する場合には、特に最初の販売日が問題となるので、最初の発表時を含めその事実をきちんと残しておく必要がある。
 しかし、意匠権を獲得するまでに模倣品が発生した場合には効果があるものの、商品の最初の販売時から3年間しか保護されない。ライフサイクルの短い製品については問題ないが、模倣品が商品販売時から3年経過後に出現することもあるから、2条1項3号商品形態模倣規則による保護だけでは不十分となる。
 以上の法律に対して、意匠権は審査の結果独占権が付与されるから、権利が非常に安定しており権利行使がしやすい権利である。また、保護期間も登録日を起算して15年と比較的長く、各産業界の平均的なデザインの寿命が7,8年であることを考えると、15年間保護されれば十分であるともいえる。また、特許のように審査請求料も不要であり、登録までにかかる費用も低額ですむ。但し、これらのメリットに対して出願をしてから登録されるまでに時間がかかるのではないかという懸念がある。
従って、新商品を販売するまでに意匠登録が完了していれば最も望ましいが、実際には、商品販売前に意匠出願を済ませ、販売開始後は、意匠登録までは不正競争防止法2条1項3号を意匠権を補完するために利用し、最終的には安定した意匠権獲得することが、保護期間、保護対象、権利行使の点から総合して、商品形態の保護には一番適切である。

意匠審査期間のデータ

意匠権の獲得までの期間
  もともと意匠権の活用方法という観点では、特許のように実施許諾をして金銭的な利益を得るために利用するよりも、模倣品を排除して自社製品を守るために利用するという側面が強い。
そのため、製品サイクルの短縮化、活発な技術革新、消費者側の商品デザイン性の重視、アジア諸国等からの模倣品流入の増加等を背景として、意匠の早期保護に対するニーズがますます高まってきており、意匠審査の迅速化が求められている。
 図中左のグラフは、1999年から2003年までの審査期間の推移を表わしており、赤線が、出願日から最初の審査結果が届くまでの期間を表わしている。青線は、出願してから最初の審査結果が出されたあと査定がされるまでの期間である。
 これによって、審査期間が急速に短縮化されていることがわかる。
 出願から一次審査結果の通知まで(FA期間)の平均期間が1999年には約15.2か月だったが、2003年は平均期間が7.7月まで短縮された。5年間で約半分となっている。つまり、拒絶理由がなければ、出願から約8ヶ月で登録査定となる。この権利取得までの期間は、特許の場合と比べて約3分の1の期間となっている。また、拒絶理由通知が発せられた場合でも、出願から約13ヶ月で登録査定となる。これは、いかに模倣品対策における意匠権獲得の重要性が高まっていることの表れと言える。
 このように、意匠は意外にも審査が早く、早期に権利を獲得できることがわかる。

意匠出願件数と登録件数

1999年から2003年までの意匠出願件数と登録件数の推移
  青線が出願件数、赤線が登録件数の推移である。意匠出願件数は、この5年間だいたい4万件で推移している。それに対して登録件数は、毎年3万件以上となっている。出願した意匠がその年に登録されるわけではないので、純粋に比較することはできないが、出願意匠に対する登録率は約80%程度であることがわかる。このことから、意匠は出願すれば登録される確率が高く、権利化しやすいと考えられる。しかも早期に権利化されることから、自社製品を守るために積極的に出願をする価値が高いと言える。
 このように意匠権は、自社製品を形態面から保護する上で非常にメリットが大きく、知財戦略の一環としての活用をすべきものである。

意匠の戦略的活用法

デザインの差別化と競争力向上のための意匠の活用方法
 商品の差別化において意匠法による保護を効果的に生かすためには、意匠法特有のさまざまな制度をうまく利用する必要がある。新商品のデザイン開発と意匠出願の大まかな流れは、下の図にあるように、デザインが決定したら意匠出願を検討して、商品販売前までに意匠出願をするということになる。意匠特有の制度をデザイン開発の中で、どのようなタイミングでいかに活用するかについて、コアデザインを保護するための部分意匠制度の活用、周辺意匠を確保するための関連意匠の活用、早期権利化を図るための早期審査制度の活用の3点について説明する。

部分意匠の活用について
 下の図は、全体意匠と部分意匠の効力の違いを表わしている。物品がカメラで、レンズ部分(水色の部分)が特徴的なデザインであるコアデザインである。

部分意匠のメリット

 せっかく差別化を図るために独創的なコアデザインを持つカメラであっても、図のようにそのカメラについて全体の意匠権しかもっていなかった場合には、そのコアデザインを含んでいるけれども全体のデザインが異なる他人の実施意匠には効力が及ばない。
 このように物品の一部に独創性を有する意匠について、第三者の模倣を排除するには部分意匠の活用が非常に効果的である。
 平成10年意匠法改正により導入された部分意匠登録制度の導入により、従来保護できなかった「物品の部分に関する意匠」について出願、登録できるようになった。この制度は、物品の全体から物理的に切り離せない部分に独創的で特徴ある創作部分が含まれている場合、その部分について意匠登録を受けたいときに有効となる。また、例えば、商品のデザイン創作の過程で、意匠登録を受けようとする商品の部分についてデザインを具体的に創作したけれども、全体の意匠についてはまだ具体的に創作できていない場合、あるいは部分的に特徴があり、物品全体として出願するとその特徴部分の評価が埋没してしまうような場合にも、役に立つ制度である。
 コアデザインについて部分意匠登録があれば、図のように、他人がコアデザインを模倣して、全体のデザインが異なっていても、それが常識的な範囲での相違・変更であればそれを排除することが可能となる。従って、部分意匠の意匠権を中心としてその部分を含む全体意匠に対しても権利の効力が及ぶため、全体意匠より権利行使可能な範囲が広くより強固な権利といえる。
しかし、コアデザインを保護するために、部分意匠が強い権利であるとしても、部分意匠の権利を取得すれば万全であるとは言えない。
 確かに、部分意匠の意匠権を中心として考えた場合、全体意匠のデザインの中でその部分のみが独創的な特徴であり、他の部分については従来どおりのデザインである場合、部分意匠の権利が取得できれば、その部分を含む全体意匠の意匠権の権利を取得する必要性は低い。しかし、コアデザインに特徴があり、全体のデザインも特徴的である場合、部分意匠しか出願をしていなければ、全体のデザインを他人に権利取得されてしまう危険性がある。また、部分意匠としてのみ実施することはありえないため、予想される全体形状についても併せて出願をすることも考慮すべきである。特に、今後商品の基本的な形状となるであろう全体形状については、部分意匠の意匠権だけに頼らず、より強固な権利形成のためにその部分を含む全体意匠についても権利を取得すべきである。

関連意匠のメリット

関連意匠の活用
 デザインの開発において、一つのデザイン・コンセプトから多くのバリエーションの意匠が同時期に創作されるという場合がよくある。関連意匠制度は、このような同時期に創作された類似する複数のバリエーションの意匠について、同一出願人が同日に出願した場合には、同等の価値を有するものとしていずれも意匠登録を受けることができるとする制度で、平成10年の意匠法改正で導入された。関連意匠として登録された意匠も、各々について独自に権利を行使することが可能となる。
 関連意匠の最大の利点は、本意匠を中心とした意匠権をグループ化し、権利範囲を拡大することにある。本意匠を中心に点在する個々の意匠権を互いに関連付けることにより、左下の図のように、両者間に位置する意匠も権利範囲内にあることを明確にすることができる。核となるデザイン(本意匠)を厚く保護するために、本意匠のまわりに防壁となる関連意匠を置くことで、本意匠と類似傾向にある他社の意匠の参入を抑制する効果がある。さらに、今後展開されることが予想されるシリーズ化商品のコンセプトを確立する効果もあり、他社製品との差別化を明確にすることができる。また、意匠権の侵害訴訟が起きた場合、要部を特定することが不可欠である。関連意匠制度を利用すれば、本意匠と各関連意匠の共通点を意匠の要部として明確化することができ、その要部を中心とした権利を主張しやすくなる。
 但し、関連意匠制度を利用するには、本意匠及び関連意匠の出願は同一人によって同日に出願することが条件となる。後追いの形で関連意匠を追加出願することはできないので、デザインの創作及び意匠出願を検討する過程で、今後の商品展開を見据えて必要なデザインをよく検討することが不可欠である。
 また、必ず本意匠を中心に関連意匠と類似関係になければならないので、関連意匠は常に、本意匠に対して直接的に類似する関係を維持する必要がある。従って、3つ以上の意匠を関連意匠制度で出願するときは、どの意匠を本意匠とするかの選択に注意が必要である。
 この関連意匠を有効に活用するためには、本意匠の特徴点がいくつかある場合には、をそれぞれの関連意匠になるべく分散して、各特徴点に対してそれぞれの関連意匠出願をすることが望ましい。そうすることにより、本意匠に類似する意匠つまり関連意匠の類似範囲にまで独自の効力が及び、結果的に権利の範囲が広がることになる。

早期審査の対象となる場合

早期審査制度について
 意匠法にも特許法と同様に、早期審査制度がある。しかも、製品のサイクルが早く製品開発からあまり時間を経ずに実施される意匠が多く、模倣品を排除する目的で意匠権を獲得する場合が多いため、模倣品が発生した場合には早期に対処する必要性があることから、この制度の利用価値は高いといえる。
 早期審査の対象となる出願は、大きく分けて権利化に緊急性を要する実施関連出願と、外国関連出願がある。そのうち利用可能性が高いのが、すでに出願した意匠を実施してる場合に、第三者が模倣品を実施してる場合である。この早期審査制度を活用することによって迅速に意匠権を獲得でき、模倣品の排除に成功した例が多数ある。
 特に、模倣品が出現した場合にさらに早期の審査が望まれており、特許庁では模倣品対策に対応した早期審査の運用を平成17年4月1日から開始している。 図中1-(1)の条件にあてはまる場合は、直ちに意匠審査に着手し、出願手続に特段の問題がなければ、申請から1月以内に一次審査結果を通知することとしている。
 ますます審査期間が短縮される中で、さらにこの制度を利用すればより早く意匠権が獲得でき、早期に適切に模倣品を排除することができるようになる。
 このような特許庁の運用から見ても、模倣品が出現したときの意匠権による対応の重要性がわかる。

デザイン開発と出願時期の関係

 以上、部分意匠制度と関連意匠制度、早期審査制度の活用について説明したが、これらの制度を活用して実際のデザイン開発においてどのようなタイミングで出願することが有効な権利形成に繋がるかを最後に述べてまとめとする。
 まず、独創的で特徴のあるコアデザインを創作した場合には、なるべく早い段階で部分意匠出願をする。もし部分的なコアデザインが決定していて全体デザインが最終的に決まっていなくても、部分意匠出願は、 全体的なデザインの決定を待たなくても出願できるので、全体デザインの決定前に、コアデザインについて部分意匠出願することが良いだろう。
 また、後で全体デザインについて意匠出願することもあるので、部分意匠出願する際には、創作したデザインの中から独創的な特徴部分の抽出か漏れなくなされているかどうか十分に検討すべきである。全体意匠を出願した後にそこに含まれる独創的な特徴部分に気付いても手遅れとなる。部分意匠が公知になってから全体意匠を出願すると拒絶されるので、部分意匠の登録公報が発行される前までには、全体意匠の出願をしておかなければならない。そして、全体デザインの意匠出願をする場合には、バリエーションの意匠を関連意匠として出願するかを検討して、全体意匠と関連意匠を同日に出願することで、意匠権の権利範囲を拡大してより強固な権利を確立する。
 さらに、出願後に模倣品が出現した場合には、模倣品を迅速に排除するために早期審査を申請することにより意匠権の早期獲得を図ることになる。
 このように、部分意匠、関連意匠、早期審査制度をうまく組合せて出願戦略を設計することが商品形態を保護する上で非常に重要である。更に、デザイン開発と平行して商品の差別化を図るためのネーミングを創作して、先行商標があるかないか、識別力があるかないか事前調査をしながら、ネーミングの絞込みをして、商品販売前までに決定をしておくことも忘れないように進めておくべきである。