2004年12月1日

創成国際特許事務所主催
平成16年度 知的財産権セミナー

セミナー写真2
平成16年セミナー風景

平成16年度創成知的財産権セミナーと題して、当所弁理士より改正実用新案制度の戦略的活用手法とスピードとコストの観点から特許権取得の効率的な方法について2講演を行ないました。

セミナー資料

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講演資料1 改正実用新案制度の戦略的活用について 弁理士 本間 賢一

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実用新案制度が平成16年に改正され、平成17年4月1日より施行される。今回の改正における最大の関心事は、「改正実用新案制度は使えるか」ということだろう。現状の実用新案制度は様々な理由から余り利用されていない制度である。では、改正実用新案制度は利用できる制度になったのであろうか。

1. 改正実用新案制度の使えるか? (図2,3参照)
 答えとしては「場合によっては」使える。
 微妙な表現となるが、現状の実用新案制度に比べれば権利者側に多少有利に改正されており、その性質を理解してうまく利用すれば、それなりの成果を上げることができると考える。逆に、改正されて権利者側に多少有利になったとはいえ、特許のように強固な権利ではなく、無審査で登録された不確定な権利であるという面は変わっていない。したがって、特に権利行使という面から見ると慎重な対応が必要とされる。では、今回の改正で権利者側にどのように有利になったか、どのような場合に使えるか、使うとした場合にどのような点に注意が必要かについて順に説明する。

2. 改正実用新案制度のメリット

 では、今回の改正で何が変わったか。権利者側にどのように有利になったかについて説明する。
[1] 存続期間の延長 (図4参照)
 1つめのメリットは、存続期間である。
 現状は出願日から6年という短い期間だが、改正により出願日から10年になった。例えば、現行制度では、当初ライフサイクルが短い製品について権利化を図ろうと実用新案を選択したが、思った以上に市場での反響がよく、さらに何年か需要が見込まれるような場合でも、6年で権利が終了してしまう。

 改正された制度では、このような製品のライフサイクルが予想よりも長くなった場合でも、権利を維持するという対応が可能になった。

[2] 権利化後の訂正が可能に (図5参照)
 2つめのメリットは、特許と同様の訂正が可能になったという点である。
 現行制度は登録後は請求項の削除しか認められていないが、改正実用新案制度では1回であれば特許と同様の請求の範囲の減縮が認められるようになった。
 現行の実用新案制度が余り利用されない理由の一因として、請求項の削除のみしか訂正が認められていない点が挙げられると考えてられる。例えば、権利行使をしたはいいが、無効審判請求がなされて、そのままのクレームでは無効理由を有するけれども、特許のように請求の範囲の減縮を目的とした訂正ができれば有効な権利となる、というような場合もそのような対処できなかった。 今回の改正では、このような権利者に不利な状況が改善されましたので、少し特許に近づいたと言える。ただし、1回に限られている点は留意すべき事項である。

[3] 権利化後に特許出願への出願変更が可能に (図6参照)
 3つめのメリットは、実用新案登録から特許出願への出願変更が可能になったという点である。
 現行制度は登録後に特許出願に変更することは認められていない。これでは、はじめはとりあえず無審査登録されればいいと思って実用新案登録をしたが、その後に実はその製品の売れ行きがよく、ライフサイクルも長くなりそうだということが判明した場合でも、特許によって保護を受けることはできなかった。
 今回の改正では、このような場合でも特許出願に変更して、審査をクリアすれば特許権を得ることができる。
 なお、特許出願に変更する際にはその基礎となる実用新案登録を放棄しなければならない点は留意すべき事項である。

[4] 登録料の減額 (図7参照)
 4つめのメリットは、登録料が減額されたという点である。
 現行制度で1年目から6年間、権利を保持するのに必要な登録料は99,600円要した。それが改正後では3分の1弱の30,600円になっている。特に、特許出願への変更と関連の深い1年目から3年目の登録料だが、現行の33,300円に対して4分の1弱の7,800円となっている。これは、後に特許出願に変更する場合にも費用負担が少なくて済むというメリットを生じる。

3.改正実用新案制度のデメリット
 では、改正実用新案制度の短所にどのようなものか。

[1] 依然として無審査登録主義 (図8参照)
 1つ目のデメリットは、現行法と同様に無審査登録主義がとられているため、権利行使は慎重に行わなければならない点である。 具体的には、第三者の侵害行為の差止等を行うにあたって、まず技術評価請求を行い、それにより得られた技術評価書を呈示して相手側に警告をする必要がある。
 その技術評価は、特許庁が行う審査のようなものだが、現行制度では出願人(或いは権利者)の意見を聞く体制にない。従って、技術評価書というのは特許庁からのファーストアクションのようなものと考えらる。
 最近の特許庁の審査の傾向としては、発明や考案を保護しようという姿勢よりも拒絶しようとする姿勢の方が強いと感じられるので、どちらかというとネガティブな評価がなされる傾向が強いのではないかと懸念される。そのような場合には権利行使が非常に困難になる。
 一方、改正後の技術評価の運用の案として、評価請求を行う際に請求人が意見を付すことができるようにしようという案が上がっているが、あくまでも案であり、実際にそのような運用がされるか否かは現在のところ不明である。
 よって、権利行使に際して技術評価請求を行わなければならないということは、権利者側としては改正後の実用新案制度の短所であると考えられる。

[2] 技術評価請求後は特許出願に変更できない (図9参照)
 2つ目のデメリットは、改正後の実用新案制度では、出願日から3年以内であれば特許出願に変更することができるが、技術評価請求をした後は特許出願に変更ができなくなる。
 その理由として、特許庁の担当者は、技術評価を特許出願に際しての先行技術調査に利用されたくないということを述べている。技術評価請求のための印紙代は約4~5万円であり、特許の審査請求の印紙代は約17~20万円であるため、まず費用の安い技術評価を請求して進歩性等の目安にし、進歩性がありそうなら特許に変更するというようなことはされたくないようである。
 いずれにせよ、法律上評価請求後の出願変更が禁止されたことは短所である。
 従って、模倣品が出回り、その実施を差止したい場合には、実用新案のまま評価請求を行って権利行使をするか、特許出願に変更して審査請求をし、特許を取得した後に権利行使をするかの二者選択を迫られることになる。

[3] 特許出願変更後は実用新案登録を放棄しなければならない (図10参照) 実用新案登録から特許出願に変更した場合、基礎となる実用新案登録は放棄しなければならないと言うことである。実用新案登録がなされていれば一応独占権が発生している状態であるが、放棄をしてしまうと権利は消滅する。また、特許出願は審査を経なければ特許権が発生しない。従って、変更後特許権を得るまでの間は権利の空白期間となる。 当該短所は、実用新案で権利行使するか、特許出願に変更して権利行使をするかの選択をする際に考慮する必要がある。

4.改正実用新案制度の戦略的活用法
 では、以上述べてきた改正実用新案制度の改善された点と短所とを勘案し、どのようにこの制度を活用するかについて検討したい。
 当事務所の見解としては、次のような場合に活用すべきと考える。

[1] 改正実用新案制度の活用手段
・1 他社への牽制 (図12参照)
 まず第一にあげられる活用方法は、「牽制」にあると考える。先に検討したように、改正後の実用新案制度も改正前と同様、無審査登録制度である。これは個人発明家等にとってはある意味で利用しやすい制度だが、企業の知財戦略におけるツールとして考えた場合、権利が無効となるリスク等を考えると権利行使のツールとして積極的に利用することは推奨できない。
 一方で、しっかりと知財戦略を立てている企業から出された実用新案登録というのは、第三者の目から見ればかなりの障害となる。その実用新案にかかる考案を実施したい第三者からすれば、その権利が有効か否かを判断しなければならない。その判断は、専門家に依頼するか、あるいは技術評価請求を行う等の対応が必要となる。
 また、改正実用新案制度は、たとえ技術評価請求で進歩性を否定するような評価がなされたとしても訂正によって有効な権利となるおそれもある。
 従って、第三者に対する牽制という意味では、改正実用新案制度は改正前の制度に比べて有利であると言える。
 また、権利維持の費用負担も軽減しており、さらに特許に変更して権利行使も行うことができるので、どうしても早期に第三者の牽制を行いたい場合は積極的に改正実用新案制度を活用すべきと考える。

・2 取引先との契約時に利用 (図13参照)
 牽制という面から見ると、取引先との関係で、何らかの権利を有していることが取引上で有利となる場合には、実用新案登録することを推奨する。これは、特許出願でも同様の効果を得られるが、特許をとるまでもないような小発明の場合、このような場合でも実用新案で権利を確立しておくことが有利となると考える。
 取引会社としては、皆様と取引を行う関係上、特に無効理由をあら探しするということも表面上は行うことはなく、何らかの権利があれば尊重せざるを得ないと考える。
 例えば、取引契約で、ある製品を納入させたいが、同業他社には納入させたくない場合、実用新案権があれば取引契約で第三者に納入させないようにすることも容易になると考えられる。

・3 開発者(考案者)の士気高揚のツール (図14参照)
 次に、技術者の士気高揚のために改正実用新案制度を活用することを推奨する。
 現在、発明・考案の質から見るといわゆる小発明であり、平成5年より前の審査を伴う実用新案制度があれば実用新案として出願すべきと考えるが、無審査で存続期間が6年しかない現行の実用新案であれば出願する必要がないと考えられていた発明や考案も改正実用新案制度のもとでは出願してもよいと考えられる。
 いわゆる小発明というのは、その技術の程度から見ると権利化に値しないと思われがちであるが、逆に権利化されれば当たり前に近い技術であるため第三者の回避が困難となる。
 このような小発明を実用新案登録することで、先ほどの第三者に対する牽制効果が期待できるし、その後の事情の変化により、積極的に権利化すべきと考えたときも出願日から3年以内であれば特許に出願変更できる。
 さらに、出願として取り上げられていなかった技術が取り上げられることになり、技術者の士気高揚につながり、その後の優良発明を生む土壌の育成にもなると考える。

・4 製品の売れ行きで保護形態を選択 (図15参照)
 小物等を取り扱う企業で、とりあえず少数の商品を試験販売し、売れ筋の商品を延ばしていくというやり方をしている場合に有効であると考える。
 売れ筋商品であれば、長期にわたって確実な権利取得が必要となり、また、実際に売れているのであるから、少々コストがかかっても権利化を図る方が有利となる。
 一方、売れない商品については4年目以降の登録料を払わないという対応をすることで、権利保持のランニングコストを低減することもできる。

[2] 費用比較
 ここまで改正実用新案制度の活用について説明してきたが、コスト面ではどうであろうか。
・1 実用新案登録にかかる費用 (図16参照)
 今回の法改正により、制度自体は改正されるが、我々代理人の手数料は同じである。
 一方、1~3年分の登録料は約25,000円ほど安くなる。
 従って、この登録料が減額になった分、費用が減少することになる。

・2 ケーススタディ (図17参照)
 クレーム数5で計算すると、実用新案出願から登録までにかかる費用は約37万円になる。
 また、初めから特許出願を選択した場合と、最初は実用新案登録をしておいてその後に特許出願に変更する場合の費用比較を行う。
 クレーム数5で計算すると、特許出願の費用は約35万円である。これは、我々代理人手数料、出願にかかる特許印紙代等を含まれる。
 一方、実用新案から特許出願に変更する場合は、実用新案登録までの費用が約37万円、出願変更手数料が12万円、その他記載の変更等が発生した場合の実費を含めると約50万円になる。
 従って、両者の差額は約15万円となる。

 最初は実用新案で、後に特許出願に変更する場合は、上述のように製品が売れているか、権利行使が可能な場合、即ち重要な案件の場合が多いと思われる。
 また、最初から特許出願の場合は、出願日から3年以内に権利化するか否かの決断が必要であり、審査請求をしない場合はその時点でみなし取り下げとなってしまう。
 実用新案の場合は、他社を牽制したければ4年目以降も登録料を支払えば権利は存続しますので、このような利点を考えると、差額の15万円は保険代のようなものと考えられるのではないだろうか。

[3] 改正実用新案制度を利用する場合の留意点
 改正実用新案制度を利用する場合の留意点について簡単に触れる。
 これはどちらかというと我々代理人が留意すべきことであるが、以下のような留意点がある。

・ 1 変更後の特許出願には新規事項追加はできない (図18参照)
 改正実用新案制度では、出願日から3年以内に特許出願への変更が可能である。一方で、実用新案の保護対象は物品の形状、構造又はその組合せに限られる。
 また、特許出願へ変更をする場合、その特許出願には実用新案出願に開示された内容を越える内容は記載できない。よって、特許出願に変更する際に新たに方法の記載を追加することはできない。
 そこで、将来特許出願に変更する際のことを考慮して、明細書中に方法の発明等を記入しておくことが必要となる。

・2 1年以内に改良発明が見込まれる場合の留意点 (図19参照)
 次に、実用新案制度を利用しない方がよい場合について説明する。
 まずは、発明又は考案が完成したが、その後1年以内に改良が行われることが明らかな場合である。
 発明が近々改良されることが明らかなときは、まず基礎となる特許出願をしておき、国内優先権制度を利用して改良発明について特許出願をすべきである。
 実用新案出願は、出願から4~6月程度で登録され、その後の優先権主張が認められなくなる。
 従って、優先期間の1年を確保するためには、実用新案ではなく特許出願とすべきである。

5.まとめ
[1] 改正実用新案制度を活用すべき場合 (図20参照)
 今回の改正実用新案制度は使えるかという問いに対する答えとして、「場合によっては」使えるとしたが、場合によってはというのはどのような意味か、最後にまとめると、他社への牽制という面に関しては、現行の実用新案制度に比べて権利者側に有利になったので、積極的に活用すべきであると考える。
 また、取引先との売買契約において、実用新案権で同業他社に納入できないようにするなどの利用方法がある。
 そして、今まで埋もれていた開発者のちょっとした発明・考案を出願することにより、開発者の開発に対するモチベーションを高め、さらなる高度な発明発掘の基板づくりをするという面からも有効であると考える。
 さらに、売れるか売れないかわからない製品の保護形態の選択という面からは、利用してもよい制度であると考える。

[2] 改正実用新案制度を利用しないほうがよい場合 (図21参照)
 逆に、やはり権利行使は特許のようにはいかないと思われるので、他社の実施の差止や、損害賠償請求を主な目的とする場合は、実用新案制度ではなく、従来通り特許制度を活用すべきと考える。
 また、1年以内に改良が見込まれる発明・考案についても、実用新案制度ではなく、特許出願及び国内優先権制度を活用すべきと考える。

講演資料2 改正PCT規則に応じた留意事項 弁理士 加賀谷 剛

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 わが国の知的創造立国としての確立に向け、ここ数年、特許法等及び関連法がめまぐるしく改正されており、これに応じて、利用者にとって産業財産権に関する制度の利用方法も大きく変化している。
 今回は最近の法改正内容を踏まえた上で、利用者にとっての産業財産権に関する諸制度の使い勝手について説明する。

1. 特許権の取得のために要する時間及びコストの最近の状況
[1] 特許権取得のために要する時間 (図2,3参照)
 平成11年改正特許法において、審査請求期間が「7年」から「3年」に短縮された。
 これに伴い、審査請求期間が「7年」である特許出願の審査請求件数と、審査請求期間が「3年」である特許出願の審査請求件数とが重複し、審査請求件数が急激に増加しているという事態が生じている。これは、審査請求期間の短縮のみならず、審査請求率の上昇が一因でもある。
 従って、特許庁が職員増員等の対策をしているにもかかわらず、特に最近数年において、特許出願の審査待ち件数は年ごとに増加し、審査待ち時間も年ごとに長くなっている。

[2] 特許権取得のために要するコスト (図4参照)
 また、平成15年改正特許法において、特許関係料金が以下のように改定され、出願手数料及び特許料が引き下げられる一方、審査請求料が引き上げられた。

・1 出願手数料

改定前 改定後
21,000円 16,000円

・2 審査請求料

改定前 改定後
84,300円+2,700円×請求項数 168,600円+4,000円×請求項数

3 特許料(各年分)

  改定前 改定後
 1-3年目 13,000円+1,100円×請求項数  2,600円+200円×請求項数 
 4-6年目 20,300円+1,600円×請求項数  8,100円+600円×請求項数 
 7-9年目円 40,600円+3,200円×請求項数  24,300円+1,900円×請求項数 
 10-25年目 81,200円+6,400円×請求項数  81,200円+6,400円×請求項数 

[3] 特許権取得に関する現状
 従って、なんら方策をとらずに特許出願及び審査請求をすると、特許取得に要する時間は長くなり、特許取得に要するコストが高くなる。

 そこで、一定の要件を満たす場合には種々の制度等を利用することより、特許取得のスピードアップ、又はコストダウンを図ることが可能となる。

2. 迅速に権利を取得するための方策
 迅速に権利を取得するための方策として(1)早期審査制度の利用、(2)優先審査制度の利用、(3)先行技術調査の実施、(4)実用新案制度の利用」が挙げられる。 (図5参照)
 以下、これらの方策について、メリット及びデメリットを踏まえながら説明する。

[3] 早期審査制度の利用 (図6参照)
 早期審査制度とは、一定要件を満たす特許出願について、他の出願に優先して早期に審査してもらうことができる制度である。

・1 早期審査制度の利用要件
 早期審査制度を利用するためには以下の要件を満たす必要がある。
 a 審査請求がされていること(早期審査請求と同時でも可)
 b 次のうちいずれか1つの条件が満たされていること
 ・ 出願人自身又はその実施許諾を受けた者による実施発明に関する特許出願であること
  ・ 出願人がその発明について日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している特許出願、又は国際出願している特許出願であること
  ・ 出願人が大学・短期大学、公的研究機関、承認TLO、認定TLOであること
  ・ 出願人が中小企業(中小企業基本等に定めるもの)又は個人であること
 c 次の事項が記載された「早期審査に関する事情説明書」を提出すること
 d 要件 b のうちいずれかを満たしている旨の説明
 e 先行技術の開示及び出願発明との対比説明

・2 早期審査制度を利用する際の留意事項 (図7参照)
(a) メリット
 早期審査制度のメリットは、審査期間が短縮されるので速やかに審査結論を取得することができ、その分迅速な権利取得を図れることである。
(b) デメリット
 逆にデメリットとしては、早期審査に関する事情説明書において、先行技術文献と出願発明との対比説明をしなくてはならないので、その分だけ労力・コストがかかることである。
(c) 留意事項
 この点から早期審査制度を利用するということは「お金でスピードを買うこと」であるといえる
 従って、スピードアップによるメリットと、コスト・労力を要することのデメリットとを比較考量した上で、早期審査制度の利用の要否について検討する必要がある。

[2] 優先審査制度の利用(特許法第48条の6) (図8参照)
 優先審査制度とは、一定要件を満たす特許出願について、他の出願に優先して早期に審査してもらうことができる制度であり、権利化前の第三者による実施対応策として位置づけられる。

・1 優先審査制度の利用要件
 優先審査制度を利用するには以下の全ての要件を満たす必要がある(第48条の6)。
 a 審査請求されたこと
 b 出願公開後・特許査定前であること
 c 第三者が出願公開後・特許査定前に特許出願に係る発明を業として実施していること
 d 優先審査をする必要があること

 さらに実施の状況、実施等の影響、折衝の経過を記載した「優先審査に関する事情説明書(特施規第31条の3)」を、警告状の写し、第三者の実施品の説明書等を添付して提出する必要がある(様式46)。
 実施の状況は、第三者(実施者)が特許出願人と取引関係・人的関係・資本的関係を有するときは、その関係、生産・使用・販売等実施の方法及びその数量又は金額、実施の場所及び時期を、 実施等による影響には、事情説明書の提出者が特許出願人の場合は、第三者の実施によって特許出願人が受けている影響、事情説明書の提出者が第三者の場合は、特許出願人の警告等によって第三者が受けている影響を、折衝の経過には、実施に関して行われた特許出願人と第三者との折衝の経過及びその結果を記載する。

・2 優先審査制度を利用する際の留意事項 (図9参照)
(a) メリット
 優先審査制度のメリットは、速やかな審査結論を取得し、その分だけ迅速な権利取得・第三者への権利行使が可能となるため、損害の拡大防止を図ることができる。
(b) デメリット
 デメリットとしては、優先審査に関する事情説明書において、前記要件(c)、(d)が満たされていることを説明するため、資料収集、第三者の行為の特定等が必要なので、その分だけ労力及びコストがかかる。
(c) 留意事項
 優先審査制度を利用するということは「お金で権利行使のためのスピードを買うこと」であるといえる。
 従って、権利行使のスピードアップによるメリットと、第三者の実施行為特定等に要するコスト・労力を要することのデメリットとを比較考量された上で、優先審査制度の利用の要否について検討する必要がある。

[3] 先行技術調査の利用 (図10参照)
 先行技術調査をすることにより、発見された先行技術との差別化が図られるように発明の内容をブラッシュアップすることができるので、拒絶理由通知を受けずに速やかに特許査定を受けることができる可能性が高くなるというメリットがある。
 一方、先行技術調査には時間、労力及びコストを要する。
 これらの事情を総合勘案の上で、先行技術調査の要否を検討する必要がある。

[4] 実用新案制度の利用 (図11参照)
 実用新案法では、無審査登録制度が採用しており(実用新案法第14条第2項)、物品の形状等に関する考案については実用新案登録出願することで、迅速な権利取得が可能であるというメリットがある。
 一方、権利行使の際に実用新案技術評価書の提示、及び警告が義務付けられていることに反映されているように(同法第29条の2)、権利が法的に不安定である等のデメリットがある。
 これらの事情を総合勘案の上で、実用新案登録出願の適否について検討する必要がある。

3. 低廉に権利を取得するための方策 (図12参照)
 これまで迅速に権利を取得するための方策について述べてきたが、次に低廉に権利を取得するための方策について検討する。
 低廉に権利を取得するための方策として、(1)減免措置制度の利用、(2)中小企業技術革新制度の利用、(3)先行技術調査の実施、(4)各種助成金制度の利用、(5)実用新案制度の利用が挙げられる。
 以下、これらの方策について、メリット及びデメリットを踏まえながら説明する。

[1] 減免措置制度の利用 (図13参照)
 減免措置制度とは、一定の要件を満たす法人等が、特許出願料、審査請求料、特許料の減額又は免除という利益を享受し得る制度である(特許法第107条、第195条、TLO法、産業技術力強化法)。

・1 減免措置制度の利用要件 (図14参照)
 減免措置制度を利用するためには、以下の要件を満たす必要がある。

 国立大学法人、承認TLO、資力に乏しい個人、資力に乏しい法人、研究開発型機関等であること
 資力に乏しい法人の場合、次の要件を全て満たすこと
 ・ その発明が職務発明であること
 ・ 職務発明を予約承継した使用者等であること
 ・ 資本金3億円以下であること
 ・ 設立の日以後10年を経過していないこと
 *2004年4月1日以降の納付料金について、従来の「5年」に比較して対象が拡大された。
 ・ 法人税が課されていないこと
 ・ 他の法人に支配されていないこと
 ・ 申請人以外の単独の株主が株式総数又は出資総額の2分の1以上の株式又は出資金を有していないこと、及び、申請人以外の複数の株主が株式総数又は出資総額の3分の2以上の株式又は出資金を有していないこと。

 研究開発型機関等の場合、次の要件を全て満たすこと
 ・ その発明が職務発明であること
 ・ 職務発明を予約承継した使用者等であること
 ・ 試験研究費等比率が3%を超えていること
 ・ 資本額若しくは出資の総額、又は従業員数が一定値以下であること

 減免申請書、及び前記要件(a)を満たしていることの証明書等を提出すること

・2 減免措置制度を利用する際の留意事項
(a) メリット
 減免措置制度のメリットは、審査請求料が半額に減額され、特許料(1~3年分)が猶予され(資力に乏しい法人)又は半額に減額される(研究開発型機関等)。また、前記①に挙げた要件(a)を満たしていることの証明が比較的容易である。
(b) デメリット
 デメリットとしては、前記要件(a)を満たしていることを証明書等の準備に若干ではありますが労力・コストを要する。
(c) 留意事項
 減免措置制度の利用は、労力・コストと比較して得られるメリットが大きいので、可能である限り積極的に活用することを推奨する。


[2] 中小企業技術革新制度の利用 (図15参照)
 中小企業技術革新制度(SBIR/Small Buisiness Innovation Research)とは、「新事業創出促進法」に基づき、中小企業の新技術を利用した事業活動を促進するため、関係省庁が連携して、中小企業による研究開発とその成果の事業化を一貫して支援する制度である。
 具体的には、新産業の創出につながる新技術に関する研究開発のための補助金・委託費等について、中小企業者への支出の機会の増大を図るとともに、その成果を利用した事業活動を行う場合に、特許料等の軽減や債務保証に関しての枠の拡大等の措置が講じられている。
 SBIR特定補助金等の交付を受けて行う研究開発事業の成果における発明特許(研究開発事業終了後2年以内に出願されたものに限る。)が、平成16年度より特許料等の減免措置の対象となっている。
 SBIR特定補助金等は、経済産業省による「創造技術研究開発事業に係る補助金」「IT活用型経営革新モデル事業に係る補助金」、農林水産省による「木材利用革新的技術開発促進事業に係る補助金」、独立行政法人科学技術振興機構による「確信技術開発研究事業に係る委託費」等、さまざまなものがある。

・1 SBIRの利用要件(補助金等の交付要件)
 補助金等の交付要件は、トレンド産業の実施かを計画していること等、補助金の種類に応じてさまざまである。補助金等の交付額が高いため、交付要件は一般的に厳しいし、提出書類及びその記載事項の種類が多く、その準備作業は非常に煩雑なものになると思われる。

・2 SBIRを利用する際の留意事項 (図16参照)
(a) メリット
 事業活動の支援を目的としている補助金等の交付額が大きいので、減免措置が適用されるだけではなく、補助金等の一部を特許取得のために割り当てることができる。
(b) デメリット
 補助金等の申請書類を作成する作業が非常に膨大で煩雑であるため、多大な労力・コストがかかる。
 また、必ずしも申請が認可されるとは限らない。例えば、経済産業省による「新規産業創造技術開発費補助金」の場合、平成13年度の応募件数が「565」であるのに対して採択件数は「70」(採択率約14%)、平成14年度の応募件数が「168」であるのに対して採択件数は「61」(採択率約36%)、平成15年度の応募件数が「342」であるのに対して採択件数は「63」(採択率約18%)である。
 また、申請が認可されたとしても、それから補助金を受け取るまでの時間が長い傾向がある。
(c) 留意事項
 SBIRは、審査請求料や特許料の軽減ではなく、事業そのものの確立を目的とするものであり、補助金等の交付申請に際してはその目的に適っていることを確認する必要がある。
 その上で、補助金等の交付申請に要する膨大な労力・コスト、その労力・コストが無駄になる危険性があること、及び補助金等の交付が認可された場合のメリット等を総合勘案の上、SBIRの利用の要否について検討すべきであることにご留意いただきたい。

[3] 先行技術調査の利用 (図17参照)
・1 特定登録調査機関による先行技術調査の利用
 平成16年改正法において、出願人は、特定登録調査機関(登録調査機関のうち特許庁長官の登録を受けた者)に先行技術調査を依頼し、その交付する調査結果を提示することにより、2005年04月01日以降の審査請求料が軽減されることになった(特例法第39条の3)。
 審査請求料が軽減される点(政令で「2分の1」と定められると予測されます。)に加え、一定レベルの先行技術調査の結果を取得でき、その調査結果を踏まえて補正の要否等を事前検討し得る点で、有意義な制度である。

・2 先行技術調査の支援制度の利用
 本支援制度によれば、中小企業・個人の方は、一定の要件を満たす特許出願について、一定の民間調査事業者に依頼することにより先行技術調査を行わせ、無料でその調査結果を取得することができる。
 2004年04月01日以降の特許出願であって、審査請求されていないものが対象となる。但し、日本国を指定国とするPCT出願、及び審査請求期間満了まで2ヶ月未満の特許出願は除かれる。
 また、依頼が可能な期間が2004年06月01日~2005年02月28日までであり、また、予算の都合上予定より早期に終了する可能性があることにご留意いただきたい。
 本制度の利用によって審査請求料は軽減されないが、無料で一定レベルの調査結果を取得でき、その調査結果を踏まえて補正の要否等を事前検討し得る点で、有意義な制度である。

・3 専門家(弁理士)による先行技術調査の利用
 経験豊富な専門家による先行技術調査を利用することで、効率よく、且つ、技術的に近い先行技術を発見することができる。さらにその専門家(弁理士)にそのまま特許出願を依頼することにより、出願内容の適切なブラッシュアップ(練り直し)を図ることができ、全体的にみてコストが軽減される可能性が高くなる。

・4 先行技術調査を利用する際の留意事項
 先行技術調査をすることにより、発見された先行技術との差別化が図られるように発明の内容をブラッシュアップすることができるので、拒絶理由通知が出されることなく特許査定され、意見書等の提出に要する費用を節約又は軽減できる可能性がある。
 一方、先行技術調査には時間及び労力・コストを要する。
 これらの事情を考慮した上で、先行技術調査の要否を検討すべきである。

[4] 各種助成金制度の利用 (図18参照)
 一定の要件を満たす場合、都道府県等の自治体等から助成金を受けとることができる。
 例えば、東京都の産業労働局商工部が担当する「中小企業新製品・新技術開発助成事業」によれば、「都内に主たる事務所及び工場を持ち、引き続き1年以上事業を営む中小企業者及び団体(大企業が実質的に経営に参画していないこと)」が助成対象者である等の要件を満たす必要がある。
 工業所有権の導入費用(特許出願費用等)が、助成対象にならないものもあるので、注意が必要である。
 詳細については、事業所の所在地等に応じた自治体等に個別にお問合せいただきたい。

[5] 実用新案制度の利用 (図19参照)
 わが国実用新案法では無審査登録制度が採用されており(実用新案法第14条第2項)、審査請求しなくても登録され得るので、物品の形状等に関する考案については実用新案登録出願することで、迅速なだけではなく低廉に権利取得が可能であるというメリットがある。
 一方、権利行使の際に実用新案技術評価書の提示、及び警告が義務付けられていることに反映されているように(同法第29条の2)、権利が法的に不安定である等のデメリットがある。
 これらの事情を総合勘案の上で、実用新案登録出願の適否について検討すべきであることにご留意いただきたい。

4. 具体例 (図20参照)
 前記方策の採用の有無によって権利取得に要するスピード及びコストがどのように変化するかについて具体的に把握していただくため、いくつかのモデル・ケースにおけるスピード及びコストを比較する。ここで、特許出願時及び特許時のクレーム数をともに「10」であるとする。

[1] 前記諸制度をなんら利用しない場合
・1 スピード (図21参照)
 特許出願から特許料納付まで次のタイムケースを基準として考える。

 特許出願から審査請求 18ヶ月 
 審査請求から拒絶理由通知 24ヶ月 
 拒絶理由通知から意見書提出 2ヶ月 
 意見書提出から特許査定 3ヶ月 
 特許査定から特許料納付 1ヶ月 
 合計期間 48ヶ月 

・2 コスト (図22参照)  弁理士会の料金規定を参考とした次のコストケースを基準として考える。

 特許出願時  特許出願料
 代理人手数料
16,000円 
300,000円 
 審査請求時  審査請求料
 代理人手数料
208,600円 
30,000円 
 意見書提出時  代理人手数料 150,000円 
 特許査定時  代理人成功報酬 100,000円 
 特許料納付時  特許料
 代理人手数料
13,800円 
10,000円 
 合計費用 808,400円 

[2] 早期審査制度及び減免措置制度を利用した場合
・1 スピード (図23参照)
 早期審査により審査期間が短縮されることで、特許出願から特許取得までに要する期間が次のように短縮される可能性がある。

 特許出願から審査請求 18ヶ月 
 審査請求から拒絶理由通知 3ヶ月 (-21ヶ月) 
 拒絶理由通知から意見書提出 2ヶ月 
 意見書提出から特許査定 3ヶ月 
 特許査定から特許料納付 1ヶ月 
 合計期間 27ヶ月 

・2 コスト (図24参照)
 減免措置が適用された分だけコストが軽減される一方、早期審査に関する事情説明書の作成、及び減免措置適用のための書面作成を代理人に依頼したとすると、その分費用がかかるため、特許取得のために要するコストは全体として若干高くなる可能性がある。

 特許出願時  特許出願料
 代理人手数料
16,000円 
300,000円 
 審査請求時  審査請求料
 代理人手数料 *1
 代理人手数料 *2
208,600円 
30,000円 
135,000円 
 意見書提出時  代理人手数料 150,000円 
 特許査定時  代理人成功報酬 100,000円 
 特許料納付時  特許料
 代理人手数料
6,900円 
10,000円 
 合計費用 841,200円 

注釈
*1 減免措置適用のための書面作成料含む
*2 早期審査に関する事情説明書作成料

・3 コメント
 コストが若干高くなっているものの、権利取得に要する期間の短縮によるメリットとは比較にならない程度に大きいと考えられる。
 従って、可能である限り「早期審査制度」及び「減免措置制度」を利用することをおすすめする。

[3] 先行技術調査、早期審査制度及び減免措置制度を利用した場合
・1 スピード (図25参照)
 先行技術調査に時間を要する一方、早期審査により審査期間が短縮されるとともに、出願発明のブラッシュアップにより拒絶理由通知がないまま速やかに特許査定されることで、特許出願から特許取得までに要する期間が次のようにさらに短縮される可能性がある。

 出願前 1ヶ月 
 特許出願から審査請求 18ヶ月 (-21ヶ月) 
 審査請求から特許査定 3ヶ月 (21ヶ月) 
 中間処理手続の回避 -5ヶ月 
 特許査定から特許料納付 1ヶ月 
 合計期間 22ヶ月(-26ヶ月) 

・2 コスト (図26参照)
 早期審査に関する事情説明書の作成、及び減免措置適用のための書面作成のほか、先行技術調査を代理人に依頼したとすると、その分費用が高くなる一方、減免措置が適用されるとともに、意見書等の提出費用がなくなる分だけコストが軽減されることで、特許取得のために要するコストが全体として安くなる可能性がある。

 特許前  代理人手数料
 先行技術調査料
50,000円 
50,000円 
 特許出願時  特許出願料
 代理人手数料
16,000円 
300,000円 
 審査請求時  審査請求料
 代理人手数料 *1
 代理人手数料 *2
104,300円 
30,000円 
135,000円 
 中間処理手続の回避 -150,000円 
 特許査定時  代理人成功報酬 100,000円 
 特許料納付時  特許料
 代理人手数料
6,900円 
10,000円 
 合計費用 741,200円 

注釈
*1 減免措置適用のための書面作成料含む
*2 早期審査に関する事情説明書作成料

・3 コメント
 コストを節約し得ることと、権利取得に要する期間の短縮とに鑑みて、出願人のメリットは非常に大きいと考えられる。
 従って、可能である限り「早期審査制度」及び「減免措置制度」を利用するとともに、「先行技術調査」を行うことをおすすめする。