2004年6月1日

平成16年度特許法一部改正の詳細

 平成16年年度特許法等一部改正が平成17年4月1日より施行される。 今回改正された事項は、下記の通りである。

1 実用新案制度の改正事項

施行日 平成17年4月1日以降の出願から適用

実用新案制度の主な改正ポイント

  • 改正1 実用新案登録後も出願から3年以内に限り、特許出願への変更が可能になる。
  • 改正2 存続期間が出願日から10年に延長される。また、登録料が引き下げされる。
  • 改正3 訂正の条件が緩和される。

改正1 実用新案登録に基づく特許出願制度の導入

  • ポイント
    [1] 従来までは、実用新案登録出願から特許出願への変更は可能であったが、実用新案登録後でも出願から3年以内に限り、特許出願への変更が可能となる。
    [2] 実用新案権が設定登録された後に、審査を経た安定性の高い特許権を取得したい場合やより長期間の保護を望む場合に、利用可能となる。
  • 注意点
    [1] 新たな特許出願の明細書等に記載した事項が、基礎となった実用新案登録の出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内であることが必要である。
    [2] 実用新案技術評価書を請求した場合や無効審判請求をされた場合には、特許出願への変更はできない。
    [3] 特許出願と同時に、実用新案権を放棄しなければならないため、特許権が設定登録されるまでの間は権利が存在しない期間が生じる。

改正2 実用新案権の存続期間延長・登録料の引き下げ

  • ポイント
    [1] 現在の存続期間は、出願日から6年だが、新実用新案法では出願日から10年に延長される。
    [2] 登録料は、下表のように引き下げられる。
    [3] これにより安価な登録料で、短期的に権利保持をしたい場合の利便性が向上する。
  改正前 改正後    
  基本料金 請求項毎 基本料金 請求項毎
1-3年目 7,600円 700円 2,100円 100円
4-6年目 15,100円 1,400円 6,100円 300円
7-10年目     18,100円 900円

3 登録後の訂正許容範囲の拡大

  • ポイント
    [1] 従来は、請求項の削除を目的とする場合に限り登録後の訂正が認められていたが、下記条件の場合、訂正の許容範囲が拡大される。
範囲
請求の範囲の減縮
誤記の訂正
明瞭でない記載の釈明
請求項の削除

特許法の規定と同様になる。
新規事項追加が禁止される。
時期
最初の評価書の謄本送達があった日から2月

無効審判における最初の答弁提出可能期間

 * 上記のうち、いずれか早い日を経過するまで

請求項の削除は、時期制限なし。
回数 1回限り
請求項の削除は、回数制限なし。
 

   [2] この改正により評価書の内容又は無効審判請求書の内容を見た上で、実用新案登録請求の範囲の減縮等の訂正が可能となる。

2 職務発明制度の改正

1 現行制度の概要(特許法第35条)

[1] 特許法第35条1項
使用者等に対する通常実施権の付与

  • 特許を受ける権利は、発明者である従業員等に帰属する。
  • 一方、使用者は、職務発明を実施できる通常実施権を取得する。

[2] 特許法第35条2項
職務発明についての特許を受ける権利等の予約承継

  • 職務発明については、発明完成前にあらかじめ特許を受ける権利等を使用者が従業員等から予約承継を受けることが可能。

[3] 特許法第35条3項及び4項
「相当の対価」請求権の保障

  • 従業員等は、職務発明にかかる権利を使用者等に承継させたときは、「相当の対価」の支払いを受ける権利を有する(3項)。
  • その「相当の対価」の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについての使用者等の貢献度を考慮して定められる(4項)。

2 現行制度の問題点

[1] 使用者等と従業員等が自主的に対価を定めることが困難。
裁判において算定される「相当の対価」の額との差額を支払わなければならない。

[2] 使用者等にとっては、最終的な研究開発投資額を事前に予測することが困難なため、積極的な事業展開が阻害されるおそれがある。

[3] 従業員等にとっては、使用者等が一方的に支払う対価を定めるという状況が改善されず、発明意欲が減退する。

[4] 訴訟において、「相当の対価」が認定される際の考慮要素が不十分な場合がある。

3 改正の要点

[1] 現行の特許法第35条第1項から第3項までの内容は、実質的な変更はない。

[2] 従来通り、従業員等に「相当の対価」請求権が保証されるが、その対価の決定方法が、当事者間の取り決めによる場合と、新しく規定される第5項の要素を考慮して算定される場合がある。

[3] 改正後の特許法第35条では、特許を受ける権利等の承継を受けた使用者が従業者等に勤務規則等の定めに従って対価を支払う場合には、その対価を支払うことが不合理であってはならないという原則を第4項で規定し、その原則に反する場合、または、対価のしはらいについての定めそのものがない場合に限って、第5項の基準により裁判所が対価を算定できる旨が規定された。

新規追加条文

  • 特許法第35条第4項(新設)
     契約、勤務規則その他の定めにおいて前項の対価について定める場合には、対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められるものであってはならない。
  • 特許法第35条第5項(旧第4項)
     前項の対価についての定めがない場合又はその定めたところにより対価を支払うことが同項の規定により不合理と認められる場合には、第3項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇其の他の事情を考慮して定めなければならない。

4 対価決定の考え方

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3 その他特許法の改正

1 特許権者の権利行使の制限に関する改正

施行日 平成17年4月1日

  • 改正ポイント

 [1] 紛争の合理的解決の観点から、特許権者等の権利行使を制限する規定が明文化された。

特許法第104条の3第1項
「侵害訴訟において、特許無効審判により無効にされるべきものと認められる特許については、特許権者等は相手方に権利行使することができない。

 [2] いわゆるキルビー判決以後、侵害裁判においては権利濫用の抗弁が定着化しているが、本規定はそれを明文化し、特許権等の侵害訴訟において、特許無効の抗弁を認めたものである。

 [3] 主張・立証するべき点
従来
 「当該特許に無効理由が存することが明らかであること」
改正後
 「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められること」

 [4] 特許権者等の権利行使を阻止するための上記抗弁が、審理を不当に遅延させることを目的としてされたものと認められる場合には、裁判所はこれを却下することができることとし、審理の迅速性を確保することとした。

 [5] 特許権侵害訴訟だけでなく、実用新案権、意匠権及び商標権の侵害訴訟にも適用される。

2 侵害行為の立証に関する改正

施行日 平成17年4月1日

 営業秘密の保護を図るとともに、知的財産関連訴訟における侵害行為の立証の容易化を図ることを目的とした規定が新設される。
 特許法だけではなく、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法でも一部を除き同様に規定される。

侵害行為の立証に関する改正のポイント
改正1 書類提出義務の有無に関する非公開審理手続の整備
改正2 秘密保持命令制度の導入
改正3 営業秘密が問題となる訴訟における当事者尋問等の公開停止手続の規定準備

  • 改正1
    書類提出義務の有無に関する非公開審理手続の整備(新設特許法第105条第3項)
     いわゆるインカメラ手続きにおいて、営業秘密を含む文書の提出拒否事由の「正当な理由」の有無を判断するにあたり、裁判所は、手続の透明性を確保するため、文書提出命令の申立人、訴訟代理人、補佐人に対象となる文書を開示することができる制度が導入される。
  • 改正2
    秘密保持命令制度の導入(新設特許法第105条の4)
     知的財産権に関する訴訟においては、今後一層の営業秘密が提出されることが予想される。訴訟で開示される営業秘密をより適切に保護するために本制度が導入される。

    [1] 秘密保持命令の内容
     訴訟で開示された営業秘密を訴訟追行の目的以外の目的で使用し、又は、当該営業秘密に関する秘密保持命令を受けた者以外の者への開示をしてはならない。

    [2] 秘密保持命令の発令要件
     当事者が申立をし、以下の2点について疎明された場合、裁判所が決定で発する。
     1 準備書面及び証拠の内容に営業秘密が含まれていること。
     2 当該営業秘密の訴訟追行目的以外で使用または開示を防止する必要があること。

    [3] 秘密保持命令違反
     3年以下の懲役また200万円以下の罰金
  • 改正3
    営業秘密が問題となる訴訟における当事者尋問等の公開停止手続の規定準備(新設特許法第105条の4)
     憲法では、裁判公開の原則が定められていることから、営業秘密に関する訴訟では困難な点が指摘されていた。
     今回の改正では、憲法の範囲内で、当事者尋問等の公開を停止できる場合が明確に規定された。

    [1] 規定の内容
     特許権侵害に係る訴訟における当事者が、その侵害の有無についての判断の基礎となる事項であって当事者の保有する営業秘密に該当するものについて尋問を受ける場合に、裁判官の全員一致により、以下の2つの要件に該当すると認めるときは、尋問を公開しないで行うことができる。

    [2] 要件
     1 当事者等が公開の法廷で当該事項について陳述することにより当該営業秘密に基づく当事者の事業活動に著しい支障が生じることが明らかであることから十分な陳述をすることができない。
     2 当該陳述を欠くことにより他の証拠のみによっては当該事項の判断とすべき特許権の侵害の有無についての適正な裁判をすることができないと認めるとき。

4 その他知財関連法改正

知財関連法規の改正事項
改正1 知的財産高等裁判所の設置
改正2 民事訴訟費用等に関する法律の改正
改正3 著作権法の改正
改正4 信託業法の改正
改正5 破産法の改正

改正1 知的財産高等裁判所の設置

施行日 平成17年4月1日

 知的財産に関する事件について、裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、東京高等裁判所に特別の支部として、知的財産に関する事件を専門的に取り扱う知的財産高等裁判所が設置される。

 これにより、特許法、実用新案法、意匠法及び商標法での審決取消の訴えに係る訴訟事件及び侵害訴訟の控訴審は、知的財産高等裁判所で取り扱われることになる。

改正2 民事訴訟費用等に関する法律の改正

施行日 平成17年4月1日

[1] 訴訟代理人の報酬について、敗訴者負担制度が導入される。

[2] 訴訟代理人の報酬に係る費用は、当事者双方による共同申立がある場合には訴訟費用として敗訴者の負担とされる。

[3] 敗訴者の負担とされる訴訟代理人の報酬に係る費用の額は、訴訟目的の価額に応じて算出するものとする。

改正3 著作権法の改正

施行日 平成17年4月1日

 著作権制度をめぐる情勢変化に対応して、著作権等を適切に保護するための改正がなされる。主要な改正点は、下記の通りである。

[1] 「専ら国外において頒布することを目的とする商業用レコードを情を知って、国内において頒布する目的をもって輸入する行為等を、著作権または著作隣接権侵害とみなす。」
(著作権法第113条第5項)

 これは、音楽レコードの還流防止措置のための規定である。例えば、正規のライセンス契約によって海外で適切に制作された音楽レコードであっても、還流を販売後一定期間禁止されている物については、国内において頒布する目的をもって輸入する行為等を著作権または著作隣接権侵害とみなすものである。

[2] 書籍または雑誌の貸与による公衆への提供について、貸与権(無断で貸与されない権利)が及ぶ。
 従来、書籍・雑誌については暫定措置がとられ、無断貸与ができることになっていたが、暫定措置が廃止され、音楽CD・ビデオ等と同様に、公衆への提供について貸与権が付与される。

[3] 著作権等の侵害についての懲役刑及び罰金刑の上限を引き上げ、併科できることとする。

改正4 信託業法の改正

施行日 公布日から6ヶ月以内(未定)

 現行の信託業法では、受託財産の制限規定がおかれていたが、改正信託業法では、制限規定が廃止された。特許権や特許を受ける権利も、受託財産の対象となる。

 これにより、知的財産権の管理手法の多様化、知的財産権に基づく資金調達手法の多様化がもたらされる。

改正5 破産法の改正

施行日 公布日から6ヶ月以内(未定)

 知的財産権に関する実施許諾契約があるもとで、権利者が破産した場合、実施権者は当該実施権が専用実施権、あるいは登録された通常実施権であれば、破産手続きに従った処分から保護されることになる。